着物を傷めずに美しく:初心者でもできる正しいたたみ方とシワ対策
着物を長く大切にする上で、日頃のお手入れは非常に重要です。特に、着用後のたたみ方は、着物の美しさを保ち、シワや型崩れを防ぐための基本となります。着物に触れ始めたばかりの方の中には、「どのように畳んだら良いのか」「シワになってしまわないか心配」といった不安をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、大切な着物を傷めずに美しく保つための、基本的なたたみ方と、万が一シワがついてしまった場合の対処法について、初心者の方にも分かりやすくご説明いたします。
なぜ正しいたたみ方が大切なのか
着物はデリケートな素材が多く、一度シワが深く入ってしまうと元に戻すのが難しい場合があります。また、間違ったたたみ方は、生地に余計な負担をかけ、型崩れや傷みの原因となることもあります。正しいたたみ方を身につけることで、着物を美しく保ち、より長く愛用することに繋がります。
着物のシワ対策の基本
着物のシワは、着用中の動きや、保管方法によって発生します。シワを最小限に抑えるためには、着用前後と保管時のちょっとした工夫が役立ちます。
1. 着用後の風通しと湿気取り
着物を脱いだらすぐに畳まず、まずは着物ハンガーにかけて風通しの良い場所で陰干しをしてください。着用中に吸い込んだ汗や湿気をしっかり飛ばすことで、カビの発生を防ぎ、生地を休ませることができます。直射日光は色あせの原因となるため避けてください。 この際、気になるシワがあれば、軽く手で撫でて伸ばすだけでも効果があります。
2. たたむ前の最終確認
風通しを終えたら、畳む前に着物全体に汚れやシミがないかを確認します。もし軽い汚れがあれば、適切な方法で対処してください。汚れを見落としたまま畳んでしまうと、時間が経ってシミが定着する恐れがあります。
基本の「本だたみ」を覚えましょう
着物のたたみ方にはいくつか種類がありますが、最も基本となるのが「本だたみ」です。日常的な保管や、たとう紙(着物を包む和紙)に入れる際に適しています。初心者の方でも迷わないよう、具体的なステップで解説します。
準備するもの
- 広げられる平らで清潔な場所(畳、テーブルなど)
- 必要であれば、薄手の清潔な布(着物を傷つけないため)
本だたみの手順
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広げる: 着物を広げ、裏地が見えるように下にして、襟元が左側、裾が右側になるように置きます。広げた際に、身頃(みごろ:胴体の部分)のシワを軽く手で伸ばします。
- 専門用語解説:
- 衽(おくみ): 着物の前身頃に縫い付けられている細長い布です。襟元から裾まで繋がっています。
- 身八つ口(みやつぐち): 着物の脇にある開口部のことです。
- 専門用語解説:
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右の身頃をたたむ: 右側の身頃を、衽線(おくみせん:衽と前身頃の縫い合わせの線)に沿って左へ折ります。この時、右側の衽は、左側の衽の上に重なる形になります。
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左の身頃をたたむ: 左側の身頃を、右側で畳んだ身頃の上に、着物の中心線に沿って重ねるように折ります。これで、着物の前身頃が二つ折りになった状態です。
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右の袖をたたむ: 右の袖(そで)を、身頃の上に重ねるように折ります。袖の長さや生地の厚みに合わせて、きれいに収まるように調整してください。袖口(そでぐち)が身頃の裾(すそ)からはみ出さないように注意します。
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左の袖をたたむ: 左の袖も同様に、身頃の上に重ねるように折ります。この際、右の袖と重なるように、丁寧に合わせてください。
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肩山(かたやま)でたたむ: 着物を縦半分に折ります。肩山(かたやま:着物の肩の縫い目部分)を目安に、裾が襟元に重なるように丁寧に折ります。折り目がずれないように、全体を軽く押さえながら整えます。
- 注意点: この工程で無理に引っ張ったり、乱暴に折ったりすると、生地にシワや負担がかかりやすくなります。
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完成: これで本だたみが完成です。きれいに畳んだら、たとう紙に入れて保管します。
シワがついてしまった場合の対処法
正しいたたみ方を心がけていても、ちょっとしたことでシワがついてしまうこともあります。軽いシワであれば、ご自宅で対処できる方法があります。
1. 霧吹きと陰干し
軽いシワには、霧吹きで軽く湿らせて陰干しする方法が有効です。 * 手順: 1. 霧吹きにきれいな水(水道水で構いません)を入れます。 2. シワになっている部分から20〜30cmほど離し、ごく軽く湿らせる程度に霧吹きをかけます。生地がびしょ濡れにならないよう注意してください。 3. 着物ハンガーにかけ、風通しの良い場所で陰干しします。湿気が抜けるとともに、シワが自然と伸びていきます。 * 注意点: 絹などのデリケートな素材は水ジミになる可能性もゼロではありません。目立たない場所で試してから行うとより安心です。
2. 着物ハンガーでの一時保管
着用後や、畳む時間がない場合の一時的なシワ伸ばしには、着物ハンガーに吊るして重みで自然にシワを伸ばす方法も有効です。数時間から一晩吊るしておくことで、軽いシワは目立たなくなることがあります。
3. アイロンの使用について(細心の注意と専門家への相談)
ごく浅いシワであれば、低温のアイロンを当てることで目立たなくできる場合もありますが、着物へのアイロンがけは非常に専門的な知識と技術を要します。
- 絶対に避けるべきこと:
- 直接生地に高温のアイロンを当てること。
- 当て布なしでアイロンをかけること。
- 素材不明の着物に自己判断でアイロンをかけること。
- もしご自身で試す場合:
- 必ず着物の素材を確認し、その素材に適した低温設定にしてください。
- 必ず厚手の清潔な当て布を使用し、生地に直接アイロンが触れないようにします。
- 蒸気は使わず、乾いた状態でごく軽く押さえるようにかけます。
- 目立たない場所(裾の裏側など)で試し、色落ちや生地の変質がないか確認してから行ってください。
- 深く頑固なシワや、高価な着物の場合: ご自身でのアイロンがけは避け、迷わず専門の悉皆屋(しっかいや:着物の染め直しや洗い張り、仕立て直しなどを行う専門業者)やクリーニング店に相談することをお勧めします。無理な処置は、かえって着物を傷める原因となります。
たたみ方以外のシワ対策と保管のコツ
- たとう紙の活用: たたんだ着物は、必ずたとう紙(薄い和紙でできた包み)に入れて保管しましょう。たとう紙は湿気を吸い、着物を外部の刺激から守る役割があります。定期的に新しいものに交換することをお勧めします。
- 収納場所の工夫: 着物を重ねて収納する場合は、重いものを下にし、軽いものを上に置くようにします。また、重ねすぎると下になった着物に深いシワがつきやすくなるため、注意が必要です。収納スペースに余裕を持たせ、定期的に着物の位置を入れ替えることも有効です。
- 湿気の管理: 湿気の多い場所での保管は、カビだけでなくシワの原因にもなります。桐たんすなど、調湿効果のある収納家具の利用や、除湿剤の活用も検討してください。
まとめ
大切な着物を長く美しく保つためには、正しいたたみ方を習得し、日々のケアを丁寧に行うことが重要です。初心者の方でも、基本の「本だたみ」と、シワがついてしまった際の簡単な対処法を実践することで、着物への理解を深め、より安心して着物ライフを楽しむことができるでしょう。
もし、ご自身での対処が難しいシワや汚れが見つかった場合は、無理せず専門家にご相談ください。専門の知識と技術を持ったプロの手で、大切な着物を最適な状態に保つことができます。この情報が、皆様の着物ライフの一助となれば幸いです。